2025.08.13
社内イベント制作ストーリー【第6章_イベント本番前日は、準備と緊張のピーク!】
イベント担当に任命されてから最初の1週間は、とにかく情報をかき集めることから始まりました。
昨年のイベント資料、過去の写真、参加者アンケートの結果——机の上にはどんどん紙の山が積み上がっていきます。
でも、何を見ても最初に立ちはだかる壁は同じでした。
「今回の目的は何か?」
これが決まらないと、すべてが動き出せないのです。
部長から言われたのは「社員同士の交流を深めたい」という、ふわっとした方針だけ。それを具体的な形にするのが私の仕事です。でも、交流と一口に言っても、表彰式をやるのか、ゲーム大会にするのか、はたまたパネルディスカッションなのかで、準備も雰囲気もまるで違います。
「交流」と「盛り上がり」は必ずしも同じじゃない。例えば、お酒を飲みながらの懇親会は盛り上がるけど、深い話はしづらい。逆にワークショップ形式なら部署を超えた意見交換ができるけど、参加者が退屈に感じることもある…。
頭の中で選択肢を並べては消し、また浮かべては消す、そんな日々が続きました。
ある日の午後、会議室で総務チームの先輩・佐藤さんに相談してみました。
「目的がぼんやりしてて、何から決めたらいいかわからないんです」
佐藤さんはペンをくるくる回しながら、こんなことを言いました。
「まずは、参加者にどうなってほしいかを考えるといいよ。“楽しんでほしい”とか“仲良くなってほしい”じゃなくて、もう一歩踏み込んで。“イベントが終わった後に、参加者がどんな気持ちで会社に戻るか”をイメージするんだ。」
その言葉は、私の中で何かを動かしました。
例えば「普段話さない部署の人と自然に会話できた」と感じてもらうこと。それは確かに“交流を深める”の具体的な姿です。
週末、ノートとペンを持って近所のカフェにこもり、自分なりに参加者像を描いてみました。
参加者は20代から50代まで幅広く、性格も立場もバラバラ。中にはイベントが苦手な人もいるはずです。そんな人たちが無理なく会話できるきっかけを作るには、どうすればいいのか…。
頭に浮かんだのは、昨年の写真の中で、一番楽しそうに笑っている人たちの姿。ゲームの最中、知らない人同士が肩を並べて笑っていました。その瞬間こそ、今回のイベントで再現したい場面かもしれない。
「笑顔でつながる時間」——その言葉がノートの真ん中に浮かび上がりました。
翌週の定例会議で、私はそのテーマ案を発表しました。
「今年の社内イベントのテーマは、“笑顔でつながる時間”です。部署や年齢に関係なく、自然に笑顔になれる瞬間を作ります。」
発表を終えた瞬間、部屋が静まり返りました。部長は腕を組んだまま、じっと私を見ています。
数秒後、「いいね」と短く言いました。その一言で、肩から力が抜けました。
ただし、その後に続いたのは厳しい現実です。
「で、そのテーマをどう実現する? 具体的なプログラムは?」
まだ何も固まっていない私は、慌てて「これから練ります」と答えるしかありませんでした。テーマは決まった。でも、それはまだスタートラインに立っただけ。この先にあるのは、山のような準備と判断。そう思うと、少し背筋が伸びると同時に、胸の奥がざわざわしました。
帰り道、駅までの歩道を歩きながら空を見上げました。夕焼けのオレンジ色が、どこか優しく背中を押してくれるようです。
「笑顔でつながる時間」。自分で決めたからには、この言葉に恥じないイベントを作らなくては。そう静かに誓いました。