社内イベント制作ストーリー【第1章_はじまりは突然に!イベント担当就任しちゃいました】

その朝は、いつもと何も変わらないはずでした・・。


まだ少し冷たい空気の中、会社近くのカフェでテイクアウトしたカフェラテを手に、オフィスビルの自動ドアをくぐります。

エレベーターの中で聞こえてくる同僚たちの他愛もない会話。

ガラス越しに差し込む柔らかな朝日。何も特別なことが起きそうにない、そんな月曜日の始まりでした。

デスクに着き、PCの電源を入れ、未読メールをチェック!

窓際の席から見える通りには、出勤途中の人たちが小走りで行き交っています。今日は溜まった書類を片付けて、定時で上がって帰りに映画でも観よう。そんなことをぼんやり考えていました。

——その時です!

「◯◯さん、ちょっといいかな?」


背後から聞こえたのは、総務部長の声。振り返ると、書類を抱えた部長が立っています。眉間には軽く皺が寄っているけれど、その口元は妙に穏やか。

「はい、どうかされましたか?」


椅子から半分腰を浮かせた私に、部長はにっこり笑ってこう言いました。

「次の社内イベント、君に任せるよ。」

…え?

瞬間的に耳を疑いました。脳内で言葉がスローモーションのように反響します。「君に任せるよ」。その一言が、まるで重量級の荷物のように私の肩に落ちてきました。

「わ、私がですか?」


やっとの思いでそう返すと、部長は軽く頷きます。
「うん。入社3年目だし、そろそろ大きな仕事も経験しておかないと。若手らしいアイデア、期待してるよ!」

その言葉には“やってみる?”ではなく、“やる前提”の空気が漂っています。逃げ道はない——そう直感しました。

社内イベントといえば、全社員が一堂に会する年に一度の一大行事。企画から会場手配、当日の運営までを統括するのは、総務部でも特に経験豊富な人が担うことが多い仕事です。私はこれまで、受付や備品準備などのサポートで関わったことはありますが、全体の指揮を執るなんて一度もありません。

頭の中で過去の光景がフラッシュバックします。
リハーサルでマイクチェックに走り回る先輩、開演直前にケータリングの手配が遅れ焦る上司、当日進行を秒単位で調整する姿——どれも私には遠い世界の出来事でした。

「……はい、頑張ります。」
数秒の沈黙の後、そう答えていました。自分でも驚くほど、声は落ち着いて聞こえました。でも心の中は、不安とプレッシャーとほんの少しの高揚感が入り混じってぐちゃぐちゃ。

部長は満足そうに頷き、「じゃあ、まずは企画案をまとめて来週の定例会議で出してくれ」と言い残し、足早に去っていきました。残された私は、温くなったカフェラテを手にぼんやり立ち尽くすしかありませんでした。


午前中の仕事は、正直ほとんど手につきませんでした。Excelのセルを埋めながらも、頭の中は「どうしよう」の連呼。
会場はどうする? 何人来る? そもそも何をやる? いくつもの疑問が、休む間もなく押し寄せてきます。

お昼休み、同じ総務の同期・美咲にこの話をすると、彼女は目を丸くして「すごいじゃん!」と笑いました。
「いや、すごいっていうか…怖いよ。大失敗したらどうしようって。」
「でもさ、こういうのってやったもん勝ちだよ。やりきったら絶対自信になるって。」

美咲の明るい声に、少しだけ肩の力が抜けました。そうだ、逃げずにやってみよう。そう思えたのは、たぶん彼女のその一言があったからです。


午後、デスクに戻って最初にしたのは、検索エンジンで「社内イベント 成功事例」と打ち込むこと。無数に出てくる記事と写真を眺めながら、「こんな演出できたらいいな」「でも予算は…」と、現実と理想の間で早くも葛藤が始まりました。

メールの受信箱には、部長から「参考に」と送られてきた昨年の資料。開くと、分刻みのタイムスケジュール、機材リスト、ケータリングメニュー、そして膨大なチェック項目。ページをめくるたびに、心臓の鼓動が早くなります。

でも同時に、胸の奥に小さな火が灯ったのも感じました。
——これを全部、自分の手で作り上げたら、きっと誇れる仕事になる。

こうして私の「社内イベント担当者」としての挑戦が、静かに、しかし確実に始まったのです。

【第2章_企画の壁!目的とテーマ決めに大苦戦!】